『シャッター アイランド』感想: 知覚を揺さぶる圧倒的な演出

映画のレビュー

俳優の宿命

見よう見ようと思いつつ忘れてしまい、つい最近プライムビデオで見つけて視聴しました。結論から言うと、非常におすすめできる一作です。

と言うことでミスターメンタルヘルス、マーティン・スコセッシ監督によるメンヘル映画です。


この人はどうにも人間の精神に切り込んだ映画に取り憑かれており、タクシー・ドライバーやキング・オブ・コメディといったメンタル映画を撮りまくっている。

主役はディカプリオ。

タイタニックのイメージが強すぎて、金がかかってるデカい映画に出てる人みたいなイメージがあるけど、ブラッドダイヤモンドみたいな社会派映画にも出てるんですよね。しかも面白い。

ディカプリオは名前が先行し過ぎてるイメージがあるけど、どの映画を観ても違う人間に見える。プロ中のプロな稀有な俳優。

モーガン・フリーマンみたいに何役をやってもモーガン・フリーマンになるのが俳優の宿命で、ダニエル・ラドクリフが死体役をやってもやっぱりハリーに見えたり、ジョン・ウィックが時々マトリックスに見えてしまうのはものだけど、これは本当は仕方ないことなんです。

でもディカプリオは違う。

この人はなぜか、本当に作品ごとに違う誰かに見える不思議がある。

シャッターアイランドはそんなディカプリオの実力の真髄が見える。
彼にしかできない役柄だったんじゃ無いかと思えるほどに。

まだ見てない人は、今すぐここで読むことをやめてください。
この映画は、前知識がなければ無いほど光ります。

精神と現実

『シャッター アイランド』の魅力は、精神病患者の不安定な世界観をリアルに再現した点と、それを見事に演じ切ったディカプリオの演技にある。観るものを異なる現実と幻想の間でさまよわせながら、徐々に深層心理に潜む真実へと誘導する構成があまりに秀逸。

と言うのも、この映画は時々前後不覚になることがあり、会話が噛み合っていないのにまるで矛盾なく進んだり、唐突に話が飛んだりすることがある。

これはつまり、精神疾患を患った人間の世界観を再現していると言うことだ。

このおかしいのに矛盾が無いような変な感覚の再現があまりに高い。

観るものは「あれ、なんかおかしくないか?」と感じ、その違和感は徐々に増大する。
私たちは最後に、彼らと自身にはどうやら埋まることのない溝があることを知り、そんな彼らの運命に憐憫する。

物語の舞台となるシャッターアイランドは、観客を現実と幻想の狭間に引きずり込む。そこでは何が真実で何が偽りなのか、その境界が曖昧になる。巧みな映像表現が、登場人物の視点から感じる現実の歪みや知覚の不確かさを増幅させ、観る者も同じ迷宮に迷い込ませる。

彼らが正しく認識している現実と、目を背けた結果生じた幻想を行き来して、頭は終始クラクラだ。

そしてこの映画の面白い部分は、たとえ自身が生み出した幻想であろうと、彼らにとっては現実であり、真実とは必ずしも当人に寄与しないという、救いとも地獄とも取れる事実を突きつける点にある。

うる星やつらのビューティフル・ドリーマーと同じで、見たいものをだけを見続けても現実とは成立可能であり、その過程で起きた矛盾は脳が適当な理由をつけて処理してしまう。

だったら、生きる上で物事の真実性に一体どれだけの価値があると言うのだろうか。

これが建築や科学なら、正確な数字を弾き出す必要があるが、幸せに生きることが目的なら、どうやらこの考えは当てはまらないらしい。

テディの幸せは、あのまま永遠に捜査官を演じさせることだった。たとえそれが脳が作り出した都合の良い幻想だとしても、彼は間違いなく幸せだっただろう。

だが彼は遂に、真実に限りなく近い現実へと帰ってきた。そして選んだ道は自己の破滅だ。

シャッターアイランドは幻想で生きることを決意した人間にとって最後の楽園だった。

この島はまるでVRゴーグルのように、彼らの幻想を増幅させる。

だがその幻想の裏側には、眼も当てられない鋭い現実が潜んでいる。

私もあなたも、大なり小なり都合よく現実を解釈していることがあるだろう。

この時、私たちは幻想の世界にいる。

私たちにとって理想的な閉じた世界であると同時に、それは間違いなく現実なのだ。

ディカプリオは実力派

オスカーあげてください。

いやぁこの映画のディカプリオは本当にいい仕事をしてます。

狂った役柄をしてくださいと言われたら、私が思いつくアイディアなんていやらしい目をしながら高笑いをするくらいしか思いつきません。

でもディカプリオやスコセッシは違う。

本当に狂ってるのは、自己都合のままに現実を構築し、なんの疑いも持たない(持てない)こと。

なんなら彼らは厳密には狂っているのではなく、手段はどうあれそうやって現実を正しく認識しようとした結果に過ぎないという細かな部分を見事に演じている。

だから一見、彼らはまともだ。まともに見えるのにまともじゃないからこそこの映画は素晴らしい。

ただのドキュメンタリー擬きにはせず、しっかりとサスペンスも要素も含まれている。

ディカプリオの役職を捜査官にしたことでエンタメ映画としても機能している、おすすめの一作。

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