【2022年公開】シン・ウルトラマンをおすすめする理由を解説

映画のレビュー

ゴジラ、エヴァに続く庵野秀明映画

庵野映画ということで観に行きました。結論から言うと傑作です。

何かと賛否が多い庵野映画。エヴァではひたすらシンジ君の内面ばかりを描いた庵野監督だけど、シン・ゴジラが上質なポリティカル映画だったので、今作も期待を大にして行きましたよ。

私は世界の大きな流れの中でもがく個人の演出が割と好きで、シン・ウルトラマンもかなり楽しく観ることができました。

しかし、なんだかごちゃごちゃ詰め込み過ぎてワケ分からんかったという意見があったので、ネタバレ全開でこの映画が何故面白いのかを語っていきます。


※ネタバレ注意

まず、シン・ウルトラマンとはどんな物語なのかと言うと”愛”に目覚める物語です。そして驚くことに、この物語の主人公は神永新二であると同時に私たち自身だという事実です。これはいったいどういうことか。


物語の冒頭がシン・ゴジラの流れと全く一緒だったので、もしかして、ある驚異に対して国がどう動くのかをひたすら見せる演出をまたやるのか!?と心配しましたが杞憂でした。

勿論、組織や国がどう動くのかもガチガチに演出されていますが、物語はあくまでウルトラマン個人にフォーカスされています。それがまた上手いなぁと。シン・ゴジラの良さを残しつつ、味を変えて違う旨味を引き出した感じ。


何よりもこの映画の真髄は、主人公とは神永新二≒視聴者という構図を巧妙に演出しているのですが、それが非常に面白い。わざわざ説明くさいセリフが無いのでくどくない。カメラのカットとフレームでしっかりと演出しているのが良い。

この映画の真の主人公は、ウルトラマンではなく神永新二


神永新二は物語の冒頭で死んでしまい、替わりにウルトラマンであるリピアが神永新二を演じ続けることになるのですが、物語の途中で神永新二本人の意識はリピアの中にあると判明します。

リピアは様々な出来事の中で人間と触れ合い、人間のように悩み、純粋に人間という種を守りたいと願いながら、神永新二の命を蘇らせ、最後にリピア自身は絶命してしまいます。

ここにこの物語の真髄があります。


この映画は、目覚める神永新二→神永自身の視点に移り、彼を見下ろす仲間の姿が映り終幕となります。この最後の2カットに、この映画の秘密があります。それを考察してみましょう。


蘇った神永新二は、ずっとリピアの内でリピアの心情に触れながら、リピアの目を通して世界を見つめていました。

つまりこの映画で映るほぼ全ての映像は、リピアの内面から世界を眺める神永・・・を観ている私たち視聴者という形式の映画であり、神永と同じく、私たち視聴者もまた、ウルトラマンであるリピアの内面に触れ続けていたのです。


神永はリピアの内側で、リピアの人間への深い愛情を知り、何かを愛する者の姿と何なのか、どうすればいいのかを見せ続けられました。

なので蘇った神永は、もう以前までの神永とは全く違う思想になっています。神永はリピアの意志を知り、願いを知る、ウルトラマンの遺志を継いだ人間なのです。

映画で神永新二本人が喋る描写は冒頭のほんの一言だけです。なので、目覚めた神永が今後どうするのかは語られません。しかし、ウルトラマンの意志を宿した彼がどう立ち振る舞うのかは、想像に難くないでしょう。

それは、神永新二本人が次なるウルトラマンであり、そしてこの映画を最後まで観た私たちもまた、ウルトラマンなのです。


リピアが示し続けた愛するということ。それは見返りも求めず、感謝の言葉も求めず、自分が愛するもののためにただ何かをしてあげることなのです。


先日、ツイッターに愛するとはこういうことだと表して、痛みを共有する男女の画像を掲載している方がいましたが、それはきっと違うのでしょう。

心理学者のエーリッヒ・フロム著の“愛するということ”曰く、愛するとは相手の生命活動に寄与することだそうな。ならば、リピアが人間へと施した行動の全てがどれほど大きな愛情であったかよく分かります。劇中に自ら無用に傷つこうとするリピアの姿はありません。あるのは、人間社会が今後も持続するように戦い続ける、人間でない生命体の姿です。

そして視聴者もまた、リピアの愛情溢れる内面を知るウルトラマンであるという演出は、きっと私だけが感じる妄想ではありません。

映画最後の2カット、神永が目覚めても何も言葉を発さなかったのは、神永新二とは我々視聴者であるという演出であり、仲間たち全員がカメラに向かって呼びかける構図は、神永新二に呼びかけると同時に、我々視聴者にも呼びかけているというメタ的な演出であり、かつ彼らの呼びかけは神永新二への言葉なのでメタではないように演出している、素晴らしく計算されたカットなのです。


実は、ウルトラマンの作品に触れたのは、このシン・ウルトラマンが初めてなのですが、この映画を観ただけでも、庵野監督のウルトラマン愛を感じました。シン・仮面ライダーも楽しみ。


余談ですが、人間より上位の存在がいた場合、人間自身もまた生物兵器として転用されるという描写は、SF好きにはぶっ刺さる表現でした。


出演していた斎藤工らは試写会で、理解が追いつかないという話をインタビューでしていたそうです。確かに情報量が膨大で、展開も何度も変わるのですが、無駄なシーンはなく、物語もそれほど難しくないので、ちゃんと観ていれば何回観ても楽しめる映画です。


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