【傑作】ゴースト・イン・ザ・シェルはなぜ良い映画なのかを解説

映画のレビュー

押井監督とは何者か?

押井監督の名を世界へ知らしめた映画がゴースト・イン・ザ・シェルだった。

それまでの押井映画といえば、紅い眼鏡を筆頭に、ケルベロスや天使のたまごと奇態な作品が多く、うる星やつらに関しては原作者に、これはうる星ではないと評されていた。

率直に言うと、ビューティフル・ドリーマーは確かに押井監督のやりたいことが詰め込まれた映画だった。

うる星のファンには申し訳ないが、ビューティフル・ドリーマーは押井ファンには突き刺さる映画だった。なので今作ゴースト・イン・ザ・シェルも押井節が普段に詰め込まれた映画である。

というか、どんな原作ありきな作品でも、押井監督の手にかかれば押井節になるのである。

だから押井ストは、原作に関係なく押井映画を観に行く。

俳優が好きだからこの映画を観るという人は珍しくないが、監督が好きだから映画を観るとうのは映画好きに限るだろう。

そんな中で、押井監督は知らないけど、攻殻機動隊は知っているという人は多いのではないだろうか。

そんな攻殻機動隊もとい、ゴースト・イン・ザ・シェルだが、やはり観る人を選ぶ映画だ。しかし、少し観方を変えれば、とても良い映画であることが見えてくる。

今回は、そんなゴースト・イン・ザ・シェルの魅力に迫っていく。

ゴースト・イン・ザ・シェルってどんな映画?


押井監督曰く、ゴースト・イン・ザ・シェルはコンピュータと結婚する姉ちゃんの話だそうな。この端的な表現は全くもってそうで、物語の面白さも周知の通りなので物語の全体についての説明は省くことにする。ここでは、劇中に散りばめられた秀逸な表現について語る。

ゴースト・イン・ザ・シェルは機械工学や電子技術が高度に発達した世界だ。

物語の序盤、ハッキングをするゴミ収集員を追跡する途中、少佐が自分自身をネットに直接接続し、電脳が一連の処理を実行するという演出があるのだが、ここにこの映画の非凡性を垣間見ることができる。

ハリウッド版ゴースト・イン・ザ・シェル、または押井ゴーストに影響を受けたとされるマトリックスに共通するが、人間がネットに接続したとき、その電脳世界が描かれる。

電脳世界にも景色があり、進数の配列だらけであったり、現実世界と見分けがつかなかったり多様だ。だが、押井監督はそれら電脳世界を一切描かなかった。

そこに押井ゴーストの非凡性がある。

台詞ではなく、映像と音で語る


押井監督に言わせれば、電脳世界など存在しない。実在するのは、現実で電子処理を実行する人間の姿だと押井監督は考えた。だから押井ゴーストは電脳世界ではなく、ネットに接続して虚空を見つめる少佐、それを横で眺めるトグサという演出をしている。

私たちの身の回りにもPCの画面をぼんやりと見つめている職場の同僚がいるだろう。押井監督はコンピュータで処理を実行する人間の姿をよく観察していたのだろう。

めくるめく電子と情報の世界がどのように写っているのかは少佐にしか知り得ず、私たちがその景色を観ることは隣の運転席に座るトグサと同じように叶わない。

誰も握っていないのに動くハンドル、有線を通して運転する少佐を隣でぼんやりと眺めるトグサ。そこにこの映画の魅力、世界を見つめ、想像力を働かせたときにしか描けない映像の素晴らしさがある。

盛り上げない戦闘シーン


映画の最後、少佐と多脚戦車との戦闘シーンは数ある映画でも屈指の名シーンだ。

戦闘シーンといえば、映画でも特に盛り上がるカットだ。当然、カメラは目まぐるしく動き、激しい音楽が鳴り響く。

だが、ゴースト・イン・ザ・シェルは盛り上がらない。

音楽はアンビエントのように静かで、少佐と戦車はときに激しく撃ち合うが、すぐさま停滞するを繰り返す。これは押井監督の戦闘という行動の背景をしっかりと調査した努力の賜物だ。

戦闘は常に起きているわけではない。停滞し、硬直する時間が多い。

現実の戦闘に、激しくスタイリッシュなアクションはあまりない。音楽なんて鳴っているわけもなく、雨と風、銃声、弾丸が壁を叩く音だけがある。

だからゴースト・イン・ザ・シェルの戦闘はしっとりとしている。靄のかかったような音楽を背景に、水面に落ちるガラスや足音のみがある。

この盛り上がりに欠ける演出が、私には鋭く刺さる。現実としてありえても実際に目にすることができない、映画でもそう観ることができない、この映画が持つ大きな魅力だ。

押井監督は、誰も目を向けないが、確かにそこにある現実を映像へと落とし込む


押井映画にはどの作品にも共通して、世界を見つめ、人々を見つめ、そしてその先にあるものを想像力をもって創られている。妄想や理想ではなく、抽象化された事象を論理的に構築している。だからゴースト・イン・ザ・シェルはSFというジャンルが持つ、ファンタジーなイメージに括られないリアリティを帯びている。


以上で押井版ゴースト・イン・ザ・シェルの魅力の解説を終わろうと思う。

押井映画を観たいけど敷居が高そう……観たけど理解に苦しむ……

そうした人たちの助けになればと思う。また、今後押井映画を観るときに、どういった視点で観ると楽しめるかの参考になると嬉しい。

映画の魅力とは、何も物語の秀逸さや感動だけではない。セリフのないカットにも物語があり、世界を理解できる描写がある。


映画の持つ最大の魅力はやはり、映像そのものにあることをこの映画は教えてくれる。

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